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東松島市×学生×ソフトバンクによる「地方創生インターンシップ TURE-TECH」7日間密着レポート

ソフトバンクが主催する地方創生インターンシップ「TURE-TECH」。今年度は、愛媛県八幡浜市と宮城県東松島市で行われました。2,000名を超える応募の中、選考を勝ち抜いた計60名の学生が参加。今回は、2019年9月15日~21日に行われた宮城県東松島市のTURE-TECHの様子をご紹介します。

TURE-TECHについて

TURE-TECHは、課題を抱える地方自治体に学生が足を運び、市の職員や地域にお住いの方、事業者の方々へのヒアリングを行い、最終日に市長に解決策を提案する地方創生プログラム。

答えがない課題に対して、さまざまなバックグラウンドを持つ学生が一週間「脳がちぎれるほど考える」、机上の空論で終わらないリアルな空間が特徴です。過去には、学生の提案が市の施策として採択されたこともあります。

最初の2日間は汐留で事前研修

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一週間のプログラムのうち、最初の2日間は汐留で事前研修を行います。初日は、全国各地から集まった学生の顔合わせ。TURE-TECHには、年齢や専攻を問わず幅広いバックグラウンドを持つ学生が集まります。

30名の学生は5チームに分かれて課題に取り組みます。 今回学生に与えられたのは、下記の5つのテーマ。 どれも東松島市が抱えるリアルな課題です。

A ふるさと納税のさらなる成長に向けた戦略施策
B 東松島市への移住定住促進戦略
C 奥松島の観光客増加のための分析・施策の検討
D 被災元地区の土地利活用戦略
E 小野地域の直売所(ふれあい交流館)の自立運営化

各チームには、メンター・サポーター役としてソフトバンク社員が2名、東松島市の職員が数名つき、一週間を共にします。

事前研修は、現地での活動準備の場。東松島で過ごす4日間を有意義に使うため、ネットで得られる情報を中心に、地域の現状について理解を深めます。そして、議論を通じて課題に対する仮説を構築。各チームが自分たちなりの仮説を持って東松島市に向かいます。

現地でのヒアリング

3日目、いよいよ東松島市へ。現地到着後は、地元の住民や企業、自治体にインタビューを行います。

被災元地区の土地利活用戦略に取り組むD班は、東日本大震災の後に東松島へ進出した企業にヒアリングを行いました。実際に被災元地の活用に成功している事例を知り、他の地区の利活用を進めるためのヒントを得ることが目的です。

ツレテクヒアリング1.jpg 【写真中央】のびる美馬森(みまもり)プロジェクトを運営する美馬森Japanの八丸 健さん

この日に訪れたのは、のびる八丸牧場。2013年3月、沿岸部の子どもの支援を行うべく現地での活動を開始して、2018年4月に岩手県盛岡市から東松島市に牧場を移しました。

学生は「なぜこの地区に移転しようと思ったのか」「この地で事業を行うにあたって障壁があるとしたら何か」など、質問を投げかけます。

牧場長の八丸 健さんは、「結局大事なのは熱意。ここで事業を始めるための障壁はいくらでもあった。しかし自分たちには強い信念があり、だからこそ移転前に280回以上盛岡と東松島を往復したし、その中で地域住民の信頼を得ることができた」と語ります。

学生はヒアリングを通じて、土地の条件や金銭面の負担などだけではなく、地域住民や行政との協力関係の構築といった被災元地ならではの難しさがあることを実感。

 ツレテクヒアリング2.jpg 【写真左3名】「ひだまりの里」に農作物を出荷している生産者の会の方々

E班が取り組んだのは、小野地域にある直売所「ひだまりの里」の自立運営化。現在赤字が続き、事業として独立採算が取れていない状況にあります。本質的な課題を特定するため、3日間にわたり、ひだまりの里の運営主体である「ワーカーズコープ」や農作物を出荷している「生産者の会」などにヒアリングを行いました。

この日お話を伺ったのは、生産者の会の3名。地域の方に喜んでもらうことをやりがいに、自分で栽培した農作物を販売しています。

赤字が続く現状に対して3人は「古い考え方は断捨離して、ぶった切っていかないと。少しずつ変えようでは、変わらない。皆さんからもらった意見で何か化けるかもしれない」と、現状をどうにかして変えたいという思いをあらわにします。

当初、E班の学生は単価や客数といった定量的な改善要素を洗い出し、黒字化戦略を提案すれば課題は解決できると考えていました。

しかし、ヒアリングを進めるにつれ、直売所ができた背景や地域の方々の中にある心理的要因など、被災地ならではの理由が複雑に絡み合った結果、売り上げや集客率が伸びない現状が生まれていることが見えてきました。

そもそもひだまりの里は、地場産品のブランド化や買い物難民対策、そして地域コミュニティの活性化を目的に設立された交流館。

小野地域を活性化するために直売所を建てた東松島市と、自分たちで再び地域を盛り上げたいという熱い思いを持つ住民。同じ目的を持つはずなのに、歯車が嚙み合わない。そんな状況を目の当たりにした学生たちは強く心を動かされ、「なんとかしたい」という思いを胸に議論を重ねます。

中間プレゼン

4日目の夕方には、一度目の中間発表。TURE-TECHでは最終日の市長プレゼンに向け、2回の中間発表を行います。ここには市の職員・ソフトバンク社員が壁打ち役として参加。進捗を報告し、アドバイスをもとに自分たちの方向性を確認、あるいは見直すことが目的です。

2日間のヒアリングをもとに考えた彼らなりの“課題”をぶつけます。しかし、フィードバックで投げられるのは厳しい言葉。「それは同課題に取り組むほかの地区にも言えることでは?」「そんなことは汐留でも気づけたのでは?」

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中間プレゼンを受けた学生は、自分たちが立てた仮説やそれを検証するために行ったヒアリングの甘さを痛感し、根本的な課題を考え直します。「それって本当に本質的な課題なんだっけ」「東松島に来たからこそ気づけたことは何か」など、どのチームも自分たちが東松島に来た意味を再確認し、議論を深めていきます。

本気だからこそ生まれる衝突

全員が課題に対して本気で取り組むからこそ、衝突も生まれます。意見の違いはもちろん、議論の進め方やコミュニケーションの取り方など、衝突の原因はさまざま。

協調性があるメンバーが多いからといって、必ずしも議論が順調に進むとは限りません。5日目の朝、D班はワークを始める前にメンバーや話し合いの進行について、各自の思っていることを伝え合う時間を設けました。

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「抽象的な話をしすぎると、認識の齟齬が生まれてしまうからやめよう」「スポットを見すぎているから、全体の流れのどこにいるのか見失ってしまう。ホワイトボードを使って可視化していこう」など、これまでの気づきを次につながる形で全員で解消していきます。

初めて会うメンバーと共に、答えのない課題に対して短い時間で考え抜き、なんらかの結論を出す。この難しさもまた、TURE-TECHの醍醐味です。

最終日の市長プレゼン

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ついに迎えた市長プレゼン本番。各チーム10分間で、一週間考え抜いた本質的な課題や施策案をぶつけます。

プレゼンでは、ただ提案をするだけでなく「私たちもこのチームとして関わっていきたい」「私たちだからこそできることがある」など、インターンを通じて課題を自分事として捉えるようになったからこそ生まれる熱い言葉が飛び交いました。

今回のTURE-TECHでは、A班のアイデアが東松島市に採択されました。

A班が取り組んだテーマは、ふるさと納税のさらなる成長に向けた戦略施策。「納税額を3年で2倍に」という目標を掲げ、現状の課題を特定し、新規納税者の獲得とリピーター獲得に分けた施策を提案しました。

課題の一つとして挙げたのが「返礼品事業者にとって、ふるさと納税がどのように地域貢献につながるのかイメージが湧かない」という当事者意識を持ちづらい状況。そこで、東松島市が一体となってふるさと納税を盛り上げていくための土台作りとして、市や既存の返礼品事業者の他、新規の返礼品事業者が集まる定例会の設置を提案しました。

学生は「情報交換の促進や客観的かつ斬新な視点からの提案など、自分たちだからこそできることがある」と主張し、定例会にチームで参加する意思を表明。

また、リピーター獲得施策として、返礼品を届ける段ボールに事業者が地域にかける熱い思いを記して、東松島市を想起させるデザインに刷新することを提案。

しほりんスライド.png 【資料】A班のメンバーが考えた段ボールの新デザイン

あわせて、段ボールに同梱するお礼状に手書きメッセージを載せるなど、心のこもった温かみのある内容へ変更することを提案しました。

これらのA班の提案に対し、市長は「これからもぜひみなさんにアドバイスいただきながら、力を借りて頑張っていきたい」と話しました。

市長プレゼンで採択が決まると、学生と市が一体となり、施策の実現に向けた取り組みが始まります。A班のメンバーは2020年3月に実施される、ふるさと納税の事業者定例会に参加することが決定。すでに、市の方とのオンラインでの打ち合わせが始まっています。このように、メンバーや地域とのつながりが一週間にとどまらないことも、TURE-TECHの特徴です。

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参加した学生はこの一週間を通じて、リアルな課題に触れ、それを解決する難しさを深く体感しました。他人事や机上の空論では決して解決できない現場のリアル。自分を変え、仲間を変え、地域を変える。誰かの思いや熱量が次の誰かに伝播する。日常の学生生活では得られない、そんな濃密な一週間がそこにはありました。

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