プロジェクトストーリー ジョイントベンチャーを
つくるということ。
DiDiモビリティジャパン設立

DiDiモビリティジャパン設立プロジェクト

ソフトバンクは、最先端のテクノロジーや革新的なビジネスモデルを有する国内外の企業とのJV(ジョイントベンチャー)を日本で次々と設立している。2018年6月、次世代のタクシー配車プラットフォームサービスを提供すべく、世界最大級の交通プラットフォームを持ち、中国で急成長を遂げる滴滴出行(Didi Chuxing、以下「DiDi」)と、DiDiモビリティジャパンというJVを設立した。なぜソフトバンクはJVを設立し続けるのか。DiDiモビリティジャパン設立の現場から、その意義とダイナミズムに迫る。

近年の主なJV設立実績
設立年月 パートナー JV 事業概要
設立年月

2016年1月

パートナー

Cybereason

JV

サイバーリーズン・ジャパン

事業概要

AIを活用したサイバー攻撃対策プラットフォーム「Cybereason」の国内への提供

設立年月

2016年1月

パートナー

アリババグループ

JV

SBクラウド

事業概要

「Alibaba Cloud」の技術を活用した国内でのクラウドサービスの提供

設立年月

2016年11月

パートナー

みずほ銀行

JV

J.Score

事業概要

ビッグデータと先進的なAI技術を活用した国内初のスコア・レンディング事業

設立年月

2017年9月

パートナー

Findability Sciences

JV

Findability Sciences

事業概要

各種ビッグデータを基にした予測分析を行い、顧客の課題解決を図るプラットフォームサービス「Findability Platform®」の展開

設立年月

2017年7月

パートナー

WeWork

JV

WeWork Japan

事業概要

コミュニティー型ワークスペース「WeWork」の国内展開

設立年月

2018年6月

パートナー

ヤフー

JV

PayPay

事業概要

モバイルペイメントなど電子決済サービス「PayPay」の提供

設立年月

2018年6月

パートナー

滴滴出行(Didi Chuxing)

JV

DiDiモビリティジャパン

事業概要

AIを活用した次世代のタクシー配車プラットフォームサービス「DiDi」の国内提供

  • 高野 麻依子 Maiko Takano

    ソフトバンク株式会社 事業開発統括
    アライアンス事業戦略本部 事業開発部 事業開発1課
    課長
    2008年度中途入社

  • 岡崎 達也 Tatsuya Okazaki

    DiDiモビリティジャパン株式会社
    財務経理部長
    2011年度新卒入社

  • 安藤 広貴 Hiroki Ando

    ソフトバンク株式会社
    事業開発統括 アライアンス事業戦略本部
    事業開発部 事業開発2課
    課長
    2012年度新卒入社

  • 土屋 壮史 Soshi Tsuchiya

    ソフトバンク株式会社 事業開発統括
    アライアンス事業戦略本部 事業開発部 事業開発1課
    2017年度中途入社

  • 船田 菜緒 Nao Funada

    ソフトバンク株式会社 事業開発統括 事業戦略室
    投資戦略部 投資戦略課
    2017年度新卒入社

Episode.1 風土が異なる海外企業との協業。困難続きのローカライゼーション

DiDiとは、本社を中国の北京に置き、タクシー配車やライドシェア、バイクシェア、フードデリバリーなど、世界最大級の交通プラットフォームを運営するグローバル企業だ。アプリケーションの登録者は5億5,000万人以上、1日当たりの乗車数は3,000万件にも昇り、世界的に名の知られるユニコーン。2018年2月にソフトバンクはDiDiとの協業を発表、同年6月には両社のJVであるDiDiモビリティジャパンを設立し、 DiDiの革新的な人工知能とデータ分析技術を活用したタクシー配車プラットフォームサービスのトライアルが2018年秋より始まった。ソフトバンクはDiDiとの協業をどのように軌道に乗せたのか?

さかのぼること2017年秋。DiDiとの協業検討プロジェクトが発足。プロジェクトの初期メンバーは3人。
これまでも多くの新規事業の立ち上げを手掛けてきた高野がリーダーを務め、投資契約の経験が豊富な安藤がメンバーに加わった。2017年12月、プロジェクトメンバーは、DiDiの本拠地がある北京を訪れていた。DiDiが手掛けるタクシー配車アプリで試乗し、中国でDiDiを利用する顧客のニーズや満足度を探るところからプロジェクトはスタートした。日本でサービスを開始する際の障壁を把握し、プロダクトやビジネススキームをどう日本向けに構築するかを検討するためだ。過去にサイバーリーズン・ジャパンを3カ月の短期間で設立し、サービスの市場投入を成し遂げた経験を持つ高野は、このDiDiプロジェクトが高難易度の案件になるとは、この時はまだ予想していなかった。

DiDiとの交渉がスタートし、最初に困ったのは、「DiDiの担当者が見つからない」ことだったと高野は振り返る。「スタートアップは100人未満の小さな組織体であることが多いです。DiDiの場合はスタートアップでありながら、従業員8,000人を超える大企業。急拡大中の組織において、担当者が次々に変化する。チャット文化が普及しており、メールをしても返信が得られず、いったいDiDiの誰と話をすれば物事が正しく進むのか、それを理解するのにとても時間がかかりました。」

2018年2月の協業発表後、プロジェクトは本格稼働を開始した。プロジェクトのコードネームは「Project PANDA」。DiDi側から「我々はJAPAN DREAM TEAMなんだ」という話を受け、このスペルの中から文字を抜き取り、名づけられた。メンバーは徐々に増え、気づけば100人を超える大プロジェクトになった。

ソフトバンクに中途入社するやいなや、「Project PANDA」に参加することとなった土屋は、入社後一週間余りで高野らと共に中国へと飛んだ。そのミッションは、DiDiのプロダクトである、アプリなどのローカライゼーションに向けた交渉だ。日本と中国とでは、タクシーにまつわる法規制や、タクシー配車システムなどに大きな違いがある。プロダクトを日本向けにカスタマイズしなければ、日本市場では受け入れてもらえない。しかし、プロダクトの仕様を決める交渉は一筋縄ではいかなかった。それはグローバル企業とのJVだからこそのポイントだと高野は語る。「DiDiがグローバルスタンダードに合わせたい一方で、ソフトバンクとしては日本での使いやすさが最優先。そこをすり合わせるためのコミュニケーションにはとても気を遣いました」

Episode.2 一丸となって取り組んだメンバーそれぞれの成長

中途入社で参画した土屋は、前職でもテクノロジー領域の新規事業立ち上げの経験者。しかし一つの会社が100%資本を出す新規事業と、2社で出資し合うJVでは、同じ新規事業でも別物で、気づきの連続だったと振り返る。「JVでは出資者の役務を定める必要があります。ソフトバンクは日本市場での営業、マーケティング、DiDiはテクノロジー、プロダクトを中心に責任を持ちます。同じ事業を進めていく当事者でもありますが、同時に良い条件を獲得するための交渉相手でもあるところが初めは理解できずに契約の交渉を行えていませんでした。契約交渉経験が豊富な高野さんの助けもあり状況を理解しながら進めることができるようになりました。最後の詰めの時には、深夜まで契約の交渉を行ったことも良い経験になりました」

「Project PANDA」のメンバーには、土屋のほかにもう一人、入社間もないメンバーがいた。2017年新卒入社の船田は当時をこう振り返る。「会社の登記や契約に関する担当で、このプロジェクトへの参加が決まったのは、入社1年目でようやく会社に慣れてきた頃。先輩から、『会社設立、一緒にやろう!』と言われて。スタートは先輩にリードしてもらっていましたが、途中からやるべきことが直接私に下りてくるようになり、最終的には、誰よりも先方と会話することが多く、投資契約の中身を理解していたと思います。もともと学生時代のバックグラウンドは技術畑で、契約のやり方さえ分からないところからスタートしましたが、契約締結を終える頃は全て自分の力でやり切れるようになったことが自信につながりました」

安藤は、以前もJV設立やベンチャー企業との投資契約に携わってきた経験者。プロジェクト初期にはJVの事業計画の策定を手掛け、プロジェクト後期には日本での事業展開地域の検討や、プロダクトのローカライゼーション、コールセンターの立ち上げなどを手掛けた。今回、自らJV設立プロジェクトに手を挙げて加わったことで視野が広がったという。「以前は投資契約や企業価値の評価などペーパーワークを中心に担当していて、そこでは株主の視点で見ることが多く、額面上の数字で判断する傾向にありましたが、それは机上の空論だなと感じました。今回、プロダクトのローンチに直接携わって、ステークホルダーが多様で、本当は実装を間に合わせたかった機能がつけられなかったり。限られた時間軸の中でできることの制約も経験して。それをどう挽回するかを現場では常に工夫している。そのことに気づけたのが、今回のプロジェクトでの大きな収穫でした」

Episode.3 新たな会社をつくる場で得られたもの

「『事業』をつくる企業は多くあるが、『会社』をつくる企業はごくわずか」そう語るのは、事業計画の策定を安藤から引き継ぎ、JV設立後はソフトバンクからDiDiモビリティジャパンに出向し、経理・財務などの管理系業務の責任者を務める岡崎。「この事業の立ち上げを通じて、自分で決められること、決めなければならないことの幅が格段に広がった。意思決定の多さは自身の成長につながります」。JVの設立時は、もともとの職責の範囲だけでなく、予算からオフィスの場所、人事・採用方針の策定、名刺のデザインに至るまで、会社運営に必要なことは全て自身で決定する必要があった。サービス開始直前は、DiDiモビリティジャパンの社員全員でタクシー会社に出向き、営業やドライバー向けのトレーニングも行った。通常であれば、部署を異動しなければできない多くの業務を、一つのプロジェクトで経験できるのが、JV立ち上げの醍醐味だという。

「社風も含めて、新たな会社を一からつくることができました。DiDiモビリティジャパンには、ソフトバンクとはまた違う、チャレンジングな風土が生まれています。トライ&エラーを繰り返す、疾走感あふれる会社です」。自らがつくり上げた“会社”を、岡崎はそう評価した。

「やりがい以上に、ホっとした、というのが正直な感想」と述べる土屋。前職でシェアリングエコノミーの新規事業企画を手掛け、プロダクトもマーケティング戦略もカスタマーサポートも整って、あとはリリースするだけというタイミングで、プロジェクトがクローズ。あと一歩というところで苦い思いを経験していた。「公の場で、孫会長や宮内社長がソフトバンクが「DiDi」の日本展開をやるんだということをアピールしてくれて。これは絶対サービスインすると確信できて、今回遂に形になったことが、うれしかった点ですね。」

DiDiの法務責任者と、働く女性としての友情が芽生えた、と振り返るのは、高野。「DiDiのプロジェクトで特有だったなと思うのが、DiDiの実担当者が見つかっても、交渉がスムーズにいかないことが多かったんですよね。

中国という大きな市場から日本というグローバル市場へのサービス投入は、DiDiにとっても挑戦だったのかもしれません。彼女はDiDiでブラジルやメキシコでの事業展開を進めてきた一人で、グローバル展開への理解も深い。私と彼女は同じ女性だったこともあり、仲良くさせてもらっていて、見えないところでDiDi側の各プロジェクトメンバーと色んな課題を整理してくれました。法務という立場でありながら、アプリの改修や契約条件まで、事業をスケジュール通りに進めるために必要なラインまでを合意しましょう、と。無事にJVを設立し、7月のSoftBank Worldで発表できたことも、彼女の協力なしには成しえなかったかもしれない」と高野は振り返る。JVの設立プロジェクトが終わり、彼女が来日した際には、戦友である高野と船田に宛てた直筆のレターを手渡されたという。

Episode.4 JVが新たな雇用を生む

次々とJVを生み出すソフトバンク。現場から見て、JV設立の意義は2つあると高野は語る。
一つは、対象となる事業の成長を最大限にすること。海外から新たな技術やサービスが日本に進出しても、本国の会社の都合で事業を縮小、撤退となる事例は数多い。一方JVでは、2社の資本投下というコミットメントがある。「今後成長が見込まれる事業を最大限に伸ばすために、JVの設立には意味があります。我々がやっていることは、単に海外のスタートアップのプロダクトを日本に持ってくるのではなく、それを日本に向けてより良いものに築き上げ、サポートしていくこと。そのためには人もお金もしっかりと投資し、独立して成長する運営母体を作ることが必要不可欠です」。

もう一つは、新しい雇用を生み出すという、日本の未来への貢献だ。JVで新たな会社を作るということは、そこに働く場が生まれるということ。ソフトバンクはJVを設立することによって、国内に雇用を創出している。海外の優れた技術や人材とともに働く場を作ることは、日本の雇用と未来に、新たな地平を開いていくに違いない。今後もソフトバンクのJV設立による情報革命の挑戦は続く。

PAGE TOP